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  66歳 日の記し /          ☆。(´・ω・`)/ 。゜★・ ☆彡

社会の底辺で生きて来て55歳で世間と断絶を決心してから独りです。寂しいのでブログを始めました。思うことなどを書きます……仏教を生きる指針にしているのでそれも。リンクを貼らせていただくサイトの方には感謝しています。m(_ _)m

『詩のたのしさ』を読む 6章 主題と構成───完成をめざして

 おはようございます。

 

【主題と構成───完成をめざして】

P128

  • 村野四郎は「鮟鱇の吊るし切り」を見て、「この哀れな境涯は、何かに似ている、といった衝撃が、じつはこの詩のモチーフになっている5と自ら解説しています。(「残酷について」)
  • ある題材、または素材から受ける最初の感動と、表現衝動。

 

 ぼくは思うのですが、何かについての気づき、発見が、題材とともに訪れるのだろうと………見慣れた現実を打ち砕く発見が………見えなかったものが見えるようになる。

 

  • テーマとは詩の中心にある作者の思想。それが大げさなら、作者のものの見方・考え方・感じ方。
  • 何をいいたいか。何を訴えたいか。
  • 詩は、序破急、起承転結の構成をとる。

 

「さんたんたる鮟鱇」の場合。

起………まず吊り下げられた鮟鱇の「くったりした死」のイメージが提示される

承………その鮟鱇が切り刻まれ、削り取られて存在感を失い

転………ついに存在そのものを失って無と化し

結………鉄の鈎だけが人間の原罪を思わせて非情にぶらさがっている

 

 P131~は、中野重治の「機関車」を取り上げて分析しています。

  • この詩で作者は、機関車=労働者と捉え、プロレタリアートの解放に進むエネルギーを主題にしました。
  • 詩をすらすらと書ける場合もあるでしょうが………多くの場合、絵画でいえばデッサンのような下書きがあり、詩人は言葉を削ったり、書き加えたり、行を入れ替えたりします。そして構成がまとまりを見せてきます。

A………静止した機関車の形態とメカニズム

B………始動し疾走する機関車の姿

C………作者「おれ」の感動

D………機関車の思想的把握、「おれら」同士の熱い共感

 

 具体的イメージを配置して、充分なリアリティを表現に盛り込んだといえるのです。

 

 P137~は、立原道造の「はじめてのものに」を分析しています。

 このソネット形式の連構成は起承転結の形式になっています。

 

 

 ………………      ………………      ………………

 

 ぼくがこの本でいちばん勉強になったのは、P141からの萩原朔太郎の「くさつた蛤」の分析です。

 

  「くさつた蛤」

半身は砂のなかにうもれてゐて、
それで居てべろべろ舌を出して居る。
この軟体動物のあたまの上には、
砂利や潮しほみづが、ざら、ざら、ざら、ざら流れてゐる、
ながれてゐる、
ああ夢のやうにしづかにもながれてゐる。

 

ながれてゆく砂と砂との隙間から、
蛤はまた舌べろをちらちらと赤くもえいづる、
この蛤は非常に憔悴やつれてゐるのである。
みればぐにやぐにやした内臓がくさりかかつて居るらしい、
それゆゑ哀しげな晩かたになると、
青ざめた海岸に坐つてゐて、
ちら、ちら、ちら、ちらとくさつた息をするのですよ。

           (『月に吠える』から)

 

 この完成作品に対して、二つの草稿をつき比べてみましょう───としてその草稿が載っています。

【A稿】

たいがいのものは非常にやはらかい

〈まるで軟体動物のやうである〉

じつにやはらかい

〈たたきつけた〉ぐにやぐにやして居る

そしてすてきに滑らかである

〈女の → 美人の → 処女の《肌》腰を抱いたやうに滑らかである〉

〈絹のやうに〉不思議なことに女の裸体のやうに滑らかである

私の身体がなめくぢのやうである

かういふ感覚の〈世界〉夜に限って月〈夜である〉が出てゐる

青い月夜である、

〈たれも → どんな《動》生物の姿も見えない

遠い渚で貝が砂〉

〈私は波止場で鈎をたれて居る、〉

〈《渚には》微塵子のやうな私が〉みぢんこが渚を〈歩くと〉泳いでゆくと

砂利の中で貝が息をして居〈ゐ〉た、

 

【B稿】 

     〈蛤〉

     〈腐〉くさつた蛤

        ───なやましき春夜の感覚───

〈しなび〉くさりきつた蛤

半身は砂の中にうづもれて

それで居てべろべろ舌を出〈した → す蛤なり〉して居る

貝のあたまの上には

砂利やしほみづがざらざらながれ〈る〉て居る

〈それでも〉

〈じつに《軟体動物の心臓》じつにこゝろ細い〉

それがじつにじつにしづかである、

〈病気〉とほい〈ところを女の《腰紐》屍体がながれて居る〉浅瀬をくらげのひもが〈ふらふら〉流れてゐるのでさへ

〈《貝の》このものゝ内蔵にはたしかに《疾》病気がある〉

〈この貝のやはらかい内蔵は〉

〈まるで〉夢〈をみる〉のやうに〈青く透明だ → 青い《晩》月夜だ〉かすんで見える

なんともいへぬ青白い〈病気〉死病の〈晩〉月夜だ

ああ、このへんがたまらなく生ぐさい

〈《しかるに蛤はそのおよそかういふ晩に → だから今夜は》かういふときに人間がとんとかぎつて縊るのだ →くびをくくつて《も死ぬのだ》死ねばよい〉

ああそして砂利と砂利とのすきまから

蛤はまた舌べろを出した

この蛤は〈病気である〉非常に憔悴れてゐる

〈その〉まつたくぐにやゝゝした内蔵がくさりかけたのだ

それで〈ちよろゝゝ →ちらゝゝ〉ちよろゝゝ青い息をするらしい

〈たまらなく生ぐさい死《のにほひ、》霊のにほひだ、〉

             (筑摩書房版『萩原朔太郎全集』第一巻、草稿詩篇

 

 

  この草稿に対する解説は本に詳しく書かれていて、作品完成までの道のり、が辿られています。

 それにしても………イメージがどういうところから発想されるのか、がわかって非常に興味を惹かれます。

 どんな作品でも完成に至るまでは、苦闘の道程があるんだ、と知りました。

 

 

   ………………      ………………      ………………

 

 読んでいただいて、ありがとうございました。

 誰もが、穏やかで、平和でありますように。